顔はやめな、ボディにしなボディ。

心中お察しデンプシーロール・・・アタック!

終わりは始まりの鐘

ストレスは髪に悪いというけど、その原因が髪ならどうすんだい。


もうやめると決意し、ていうかもう半ば決意させられる程に追い詰められることもしばしば。

わずか半年、毎日女子らしく繕った笑顔の裏でデンプシーロールを繰り返してきた日々に、終止符を打ちたい。

何ラウンド戦ってきただろう。セコンドもタオルの使い方を忘れて畳んでタンスにしまってる。おねがい、止めて!この試合、とめて!!
そう、それ!その、そのタオル出し…あ、違う、クリーニング出さないで!!

この時点で1ヶ月近く。

どうしよう…私こんなにフラフラなのに相手すごい良いジャブ…むしろキレてる…キレッキレ……はっレフェリー…そういえばレフェリーは!?
なんて満身創痍で振り返ると布団敷いて寝てた。

この時点で約半年。

ついに私は、産まれたての子鹿みたいになった足で、敵に背を向け、リングを降り、奪いとった木槌で自らゴングを鳴らすことを決めた。



前髪との新人王戦に、終止符を打とうと思う。



だってもう無理だもん。あたし、女の子だもん。
そもそも会長のような知識も宮田くんのようや技術も鷹村さんのようなセンスも一歩のような根性もないままにリングに立ち、あまつさえ「はやく!はやくゴングならして!!」てレフェリー(美容師さん)に言ったのが間違い。レフェリー、唇噛んでたもん。
パーマかけろってオーダーでなぜか「武井咲ちゃん風にしてみました!」て息切らしながら私の前髪斜めにしてたもん。

あの、前髪、どっちかっつーと北島マヤみたいにしたかったんだけど…

ひと仕事終えてすっきりした美容師さん、我に返って「あ、」て呟いてたのほんとは聞こえてました。

でもさーわかります。わかりますよ。
たまには自分の思い通りに、切りたいよね。
この客にはこっちのが合うよなーて思っちゃうよね。
私が武井咲ちゃんに似てるってことだよね。知ってる。
どっちかってーと間柴よりの顔だと自負してたけど、三次元に変換すると武井咲ちゃんも同然だよね。知ってる。

で、じゃあどうするかって美容師さん、またの名を山田さんがうまく前髪を北島マヤっぽくするセットを教えてくれました。

「こうして、コテ縦にして挟んで、縦にやんわり巻きます」
「なるほどー」


コテ…?


「あの、コテとか無いです」
「濡れた髪をヘアピンか手で丸めてください。すいません」


あれっ今謝ったー!さらっと小声で謝ったー!さりげねー!!
美容室というオシャレの最先端の現場で、まさかの原始的手法。それ小学生のときやったやつ。
もう鏡越しに目すら合わない。あとは野となれ山となれ、どうにでもなれ!という気持ちがひしひし伝わってきました。

ひとついっすか。その野山は私が超えることになるんすけど。
前髪を押さえた原始系女子がその野山走り回ることになるんすけど、いっすか。


「おる上さんの髪質だとこの前髪がベストじゃないでしょうか」


いいみたい。

結局そのまま帰ってきて、半年と1週間。

もともと美容室には半年に一回行けばいい方だったので、野山にはそもそも住んでたようなもの。
でも仕事は接客もする。なので一応小ぎれいにする必要はあります。

言われたとおり、前髪丸め続けてきました。
彼氏が頭丸めてる横で、前髪、丸めました。
感情を髪で表現できる程度には、技術、磨きました。


そんなこんなで、日々モサモサに伸び続ける前髪と戦ってきたわけです。モサモサっつーか、もはやモフモフ。
いい加減鬼太郎も真っ青の伸びっぷり。前だか後ろだか区別のつかない髪になってしまっては、妖気を感じ取り次第前髪から総力をあげて立つこと請け合い。


もう…いいだろう…?
なんて敵(前髪)に言い聞かせ、グローブを脱ぎ、弱々しく微笑みながら前回とは違う美容室に行きました。

いそいそと小慣れ感のある一張羅で向かった席で、前髪パーマかけたいんですよねー、お願いします。と小慣れた口調で言ったのも束の間。


「僕、前髪パーマ好きじゃないです」


!?


「おる上さん、パッツン似合ってますよ、このままにしましょうか」


!!??

おまえ、前髪から金でももらってんのか!?


結局、ブチャラティとなって再びリングにあがった私おる上。アップを始めます。
さすがに黒髪にこれじゃあちと幼すぎるよなぁ…最終目標の姫川亜弓がかすむ…

コテ、買ってきた。
鳴らしたゴングは、はじまりのゴングでした。